すれ違いお見合い結婚~相手は私を嫌ってるはずの幼馴染みでした~
「お前も何やってんだ!!勝手に動くなと言っただろうっ!!死にてぇのかっ!?」

こっちに向かって怒鳴る男にビクッと反応してしまう。
がたがたと震える体は自分では制御できなくて、けれどその体を痛いくらいの力でぎゅっと抱き込まれた。

ーー男の人に……抱きしめられてる……。

目を見開き、涙の膜が張り出した瞳を怖々と上げてみればすぐ近くに智大の顔が見えて藍里は声にならない悲鳴を上げた。
今抱きしめているのは智大だと、その事実に藍里はさっきまでと違った恐怖に襲われ、体の震えがさらに大きくなるけれど、それに比例するように智大は藍里の震える体を自分に押し付けるようにさらに強く抱きしめる。

「……妻が震えてる。喘息持ちで、これ以上無理させたら発作をおこして命にかかわりかねない。
発作が起こってからでは遅いから、鞄から吸入薬だけ出させてほしい」

銃口を向けられているというのに智大は臆することもなく、真っ直ぐ男を見据えてはっきりと物を言う。
その様子に周りの人達も、もちろん藍里自身もハラハラしているのだが、智大は全く意に介してないようだった。

「その女がどうなろうが俺達には関係ない。余計な真似はするな、そのままじっとしていろ」

「……わかった」

吸入薬を出すことを却下され、智大が小さく舌打ちしたのが聞こえて藍里はビクッとした。
男は暫く智大を睨み付けるようにしてから再び窓口の方へと視線を向けた。

怒鳴って、威嚇して、早くしろと急き立てている。

怖くて見ていられなくて力なく俯きかけた時、耳元で智大の声が聞こえた。
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