すれ違いお見合い結婚~相手は私を嫌ってるはずの幼馴染みでした~
『返してっ……返してよ……!』

『返してほしかったら取り返してみろよ!』

あははははっ!と笑いながら複数の男の子が藍里を取り囲み、首から下げられるように長い紐にくくりつけられた鍵を頭上に掲げ、たまにキャッチボールをするかのように藍里の頭上で投げて遊んでいる。

身長が低い藍里は必死に手を伸ばし、何度ジャンプしても紐に掠りもしない。
次第に涙が溢れそうになるが、それすらも楽しいらしく男の子達はさらに笑い声をあげた。

『チビだからこんなのも届かないんだろー?』

『俺知ってる!こいつん家、離婚して母親しかいないの。
だから貧乏でまともなもの食べてないからちっこいんだぜ!』

『運動も勉強も出来ないのも、おどおどしてるのも、全部貧乏なせいじゃねーの?』

『あと体が弱っちいのも!全部貧乏のせいだ!』

あははははっ。と心底楽しそうに笑いながら言われたことが一瞬理解できなかった。
理解できた後はただただショックで、藍里は鍵を取り戻す気力もなくなりその場で俯いた。

ーー違う……。運動も勉強も出来ないのも、男の子が怖くておどおどしてるのも、小さいまま大きくなれないのも、体が弱くて喘息が出るのも、全部私が悪いの……。
お母さんはいつも勉強を教えてくれるし、欲しい物も買ってくれる。病院にも忙しい合間を縫って連れて行ってくれるし、ちゃんとお腹一杯ご飯をくれてるのに、私が……。

あの時、薔薇に触れようとして智大に怒られた時と同じ様に痛いくらい両手を握り締め、涙を流さないように血が滲むくらい強く唇を噛む。
やがて予報になかった雨が突然降りだすと、傘を持っていなかった男の子達は、うわっ!やべっ!と言いながら鍵を地面に投げ捨てて走って帰っていってしまった。

『……』

あっと言う間に本降りになり、辺りに水溜まりが出来ていく。
藍里はゆっくり歩き、暫くぼんやりと見つめていた鍵を取るためにその場にしゃがんで手を伸ばすとバシャバシャと誰かが走ってくる音が聞こえ、その足音は藍里の横を凄いスピードで駆け抜けて行った。

ほんの少し顔を上げてその後ろ姿を見るとその後ろ姿は智大で、こちらを気にする素振りなどは全くなく一直線に走り去っていった。
< 5 / 420 >

この作品をシェア

pagetop