すれ違いお見合い結婚~相手は私を嫌ってるはずの幼馴染みでした~
「妻は俺が見ておくから他の人を頼む」

「永瀬先輩っ!!え、じゃあ、この方が奥さんですか!?」

うわー、初めてまして。とんだ災難でしたねー。とさっきよりも少し砕けた態度と笑顔で話しかけてくるけれど、藍里は首を横に振りながら、嫌……やだ……。としか呟けなかった。

多大な緊張感から解放されれば、残ったのは処理しきれない果てしない恐怖。
自分でもどうしようもないほど襲いかかってくる恐怖に藍里に成す術はなかった。

「永瀬先輩?奥さん様子が……」

「……少し訳ありだ」

そう言うと智大は目の前で膝をついてじっと見つめてきた。
震えながらその瞳を見上げると、智大はゆっくり口を開いた。

「もういい、十分頑張った。少し休め」

そう言ったかと思えば藍里が身構えるその前に手を伸ばし、藍里を颯爽と抱き上げた。
服越しに伝わってくる智大の筋肉質な体と体温に藍里の恐怖の限界は一気にきてしまったようで目の前が真っ暗になり、怯えた瞳はすぐに閉ざされた。

それは端から見ればまるで智大の言葉に安心したかのように、藍里は智大に抱き上げられたまま意識を手放していたのだった。
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