すれ違いお見合い結婚~相手は私を嫌ってるはずの幼馴染みでした~
〈智大side〉

「おい、永瀬!悪いが現場検証や聴取に付き合ってくれ……って、おい、大丈夫か、その女性」

顔色悪いぞ?と智大から犯人を引き取り車まで連行していた室山が戻ってくると、抱き上げられた智大の腕の中、青白い顔で意識を失っている藍里を見て眉を潜めた。

「緊張状態から解放されて意識を手放しただけで大事ありません。……発作をおこされるより余程いい」

「発作?じゃあ、この人がお前の……」

そこまで言うと室山は再び藍里を見たので、智大も自然と藍里に視線を移した。

怒鳴り、威嚇し、時に至近距離へ発砲された藍里の犯人へ感じている恐怖。
倒れないように咄嗟に近くに行き支えたが、男である智大に触れられた恐怖。
緊張が緩んだ時に、助けに来たと分かってはいても見知らぬ男に手を伸ばされた恐怖。

一般人でもこの状況は怖かっただろうに、極度の男性恐怖症の藍里からしたらどれ程のものだったのだろうか。

その思いは計り知れず、藍里は意識を手放す前は、嫌……やだ……。と小声で呟き、ただ震えるだけしか出来なくなっていた。
見かねて、気絶するのが分かっていて抱き上げたが、そうしたことを恨むだろうか。

それでも、目が覚めた時には落ち着いてくれていたらいい……。

智大は藍里を抱く腕にほんの少しだけ力を加えてより自身に密着させる。
発作がおきずに本当に良かったと、心の底からそう思いながら藍里の頭に唇でそっと触れたーー。
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