すれ違いお見合い結婚~相手は私を嫌ってるはずの幼馴染みでした~
〈智大side〉

機嫌も悪くなって当然だった。

せっかくの休みに買い物に行けば同級生に出会い、気落ちした藍里を連れて銀行に寄れば銀行強盗に巻き込まれる。
極めつけは病院で目を覚ました藍里に事件の細かい情報を喋った上に、あろうことか“運が良かった”と言ったのを聞いた時には久々に頭に血が上った。

ーー事件に巻き込まれて怖い思いをした被害者に、何が運が良かっただ!

この苛々とした気分のまま藍里に会えばまた不用意に怖がらせてしまうことは分かっているので、あえて早めに家を出て訓練でこの苛立ちを発散させようとしたのに、それを阻むかのように事件絡みの書類が舞い込んでくる。

智大の鬱憤は溜まっていくばかりだった。

「先輩、先に訓練してきてもいいですか?」

「気持ちは分かるが、永瀬は一度訓練に出したら時間を忘れるからなぁ」

暗に、先にやることを終わらせておけ。と言われて智大は盛大に溜め息をつく。

同じような書類を何枚も確認するより、訓練に行きたい。
訓練して、鍛えて、誰かを……藍里を守りたい。

そう思っているのに実際には上手くいっていない現状に智大はイライラして髪を掻き乱した。

「俺は先に行くから、永瀬も早く来いよ」

「……分かりました」

肩を一度だけ叩いて去っていく室山に返事をすると、少しでも早く、多く、訓練をして力をつけるために、智大は再び書類に目を通し始めた。
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