すれ違いお見合い結婚~相手は私を嫌ってるはずの幼馴染みでした~
「……これで大丈夫、かな?」

仕事が終わって帰ってきて、犬の毛を持ち込まないように細心の注意を払いながらお風呂場へ向かう。
圭介に智大が犬のアレルギーだと知らされた時に藍里が仕事を続けるためにも、智大に症状を出させない為にも日課としているのは帰宅後すぐにお風呂に入ることだった。

今日は遅くなるって朝のメモに書いてあったからゆっくりめに入って、上がるとすぐに晩ご飯の準備を始める。

量を食べれない藍里と違って健康な体と体力が基本の智大にはバランスの良い食事を出さなければならない。
その為に買った本のレシピを見ながら料理を作り、智大が帰ってくるのを待つ。

いつもは先に一人で食べてすぐに眠り、智大が帰ってきたら自分で温め直してもらっているのだが今日は朝のおにぎりのお礼を言おうと勇気を出して起きていることにしたのだ。

結婚当初、帰りが遅くなると言っていた智大を怖い思いと眠いのを我慢しながら待っていた時があった。
帰ってきた智大に、別に待たなくていい、寝てろ。と素っ気なく言われてしまったのを思い出し、藍里はソファの上で膝を抱えて座り、膝の間に顔を埋めて服の袖をギュッと握った。

どれくらいそうしていたのか、カチャッと鍵の開く音が玄関から聞こえてきて顔を上げた。
足を下に下ろして膝の上で両手を握ると智大がリビングに顔を出した。

「……起きてたのか」

「う、うん……。あの、お帰り、なさい」

座ったまま、恐る恐るそう言うと、家ではいつも無表情な智大は僅かに目を丸くして驚きを表した。
けれど残念ながら、緊張しすぎて智大の顔を直視出来なかった藍里はその珍しい表情を見れなかった。
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