すれ違いお見合い結婚~相手は私を嫌ってるはずの幼馴染みでした~
「では、今回はシャンプーとトリートメント。それから毛並みを整える程度のカットでよろしいですか?」

「はい、それでお願いします」

「かしこまりました。約二時間程かかりますので、お時間になりましたらお迎えお願いします」

トリマーである藍里が引き受ける常連の犬のカウンセリングが終わり、飼い主からペットを預かったらここからが時間との勝負だ。
次の予約の時間までにトリミングを終わらせないといけないので、藍里は飼い主が立ち去るとグルーミングを行うために素早くガラス張りのトリミングルームへと入った。

「さあチョコちゃん、とびっきり綺麗になって飼い主さんに喜んでもらおうね!」

先程預かったばかりのトイプードルのチョコをトリミングテーブルに乗せて素早くリードを引っ掻ける。
話かけたり誉めたりしながらブラッシングしていると、満更でもなさそうな表情をするチョコに癒された。

ーー……一日中働いていたい。息が詰まりそうなあの家に帰りたくない……。

ふと家のこと、そして智大のことが思い浮かんでしまって手が止まるとペロッと舐められた感触がして我に返った。

「ご、ごめんねチョコちゃん!さあ、爪切りしようね」

アニマルセラピーとはよく言ったもので、実家にいたムラサメさんやトリミング中の動物と触れあっている間、藍里は自然と笑顔になり智大のことや嫌なことは全て忘れられた。

すっかり綺麗になったチョコに満足してもらえた飼い主に引き渡すと、藍里は少し早めの休憩に入ることになった。
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