すれ違いお見合い結婚~相手は私を嫌ってるはずの幼馴染みでした~
「何でこんなに近くに……ああ、夢か……」

どうやら寝ぼけている様子の智大は、いつもなら近寄って来ないはずの藍里が身を屈めて近くにいるのを夢だと思ったようだった。
とろんとした眼差しのまま覚醒しきれていないのが分かると藍里はハッとして衝撃から立ち直り、緩く首を振った。

「っ……えっ、と……夢じゃなくて……朝……」

「藍里……」

何とか言葉を紡いで否定しようとしたが、その前にまた呼ばれた自分の名前に驚いていると伸ばされていた腕に気付かずに藍里はいつの間にか腕を掴まれ引き寄せられてしまった。

「きゃあっ!?」

突然掴まれたこと、引っ張られたこと、そして気付けば逞しい腕の中にしっかり閉じ込められ、慌てて手をついた筋肉質な厚い胸板にサアッと血の気が引いて藍里はパニックを起こしそうになった。
息をのみ、体は震え、呼吸が乱れそうになり、どうしようもなくなっているとポンッと優しく後頭部に大きな手が乗せられた。

「っ……?」

「震えてるのか?……夢の中でも、俺のことが怖いのか……」

大丈夫だと言うように、智大の手は頭を何度も優しく撫でて、空いている手ではしっかりと藍里を抱きしめている。
藍里の顔は胸に押し付けられていて智大の表情を確認することは出来ないが、声は今まで聞いたことのないような悲しそうな声をしていた。
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