すれ違いお見合い結婚~相手は私を嫌ってるはずの幼馴染みでした~
離れてはいても近くに智大が座ったのを見てビクビクしてしまい、勝手に体が震えてしまう。
視線を泳がせ、たまに智大の様子を見るという若干挙動不審気味になってしまっている藍里にゆっくり智大が顔を向けると、藍里はその智大の表情に思わず息を飲んだ。

何か言いたそうな、けれどどう言ったらいいか分からないというような。
少し困ったような顔をしている智大を見るのは初めての事だった。

「……そんなに怖いか?」

俺が。と声には出さずに確かに口が動いたのを見て藍里は硬直した。
どう答えたらいいか分からず、さらに視線をさ迷わせると、智大は再び溜め息をついた。

「別に、お前を怖がらせるつもりも危害を加えるつもりもない。そんなにビクビクしなくてもいい」

「ぁ……」

「長い時間ここにいたんだろ?帰るぞ」

返事は期待していないのか、智大は言いたいことを言うと立ち上がった。
数歩歩いて立ち止まっては振り返るその動作に、自分の事を待っているのだと遅れて気付くと藍里は慌てて立ち上がった。

藍里が動いたのを見ると智大は何も言わずに歩き出す。
いつものように、智大の大きな背中を見失わないように、置いていかれないように、少し距離を開けて必死についていく。

その背中を見ながらさっき言われた言葉と先日寝ぼけていた時の悲しそうな声と表情を思い出し、出来るだけ怖がらないように努力してみようかと、そう思った。
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