生簀の恋は青い空を知っているか。

あの中に入っていく勇気は無いな、とわたしもそっちを見ていた。

「本当だ。邪魔してすみません、先も楽しんで」

にこにこと笑顔を見せた彼は、スマートに去っていく。星奈さんの元に行くのだろう。騎士みたいだ。

「今のが物部宏太さん……」

背中を見続けるきーくんが呟く。

「今日も仕事だったらしいわよ」
「多忙だねえ」
「多忙といえば……あ」

言いかけた鼎の言葉に、視線が集まる。鼎の視線の先にわたしも目を向けた。

開いている扉から入ってきたのは多忙なその人。

「噂をすれば影、ね」

の、後ろに入ってきた人の方へ注目が行く。

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