生簀の恋は青い空を知っているか。
「そうやって先輩を言い負かすことが出来て満足?」
言葉を疑った。人生で初めての出来事だった。
「……は?」
「昔からちやほやされて育った子には分からないでしょうけどね。社会に出たら理不尽な目にも遭うものよ」
何も言えなかった。朝倉さんは資料を持って踵を返す。
わたしは暫くそこで立ち竦み、やっとのことで自分の席に戻った。
「俺、言ってきます。なんですか今の」
五色くんが机をざっと片し始める。その横顔がいつにも増して怒っていたので、制止した。
「やめておこう、うん」
自分にも言い聞かせるように言う。