生簀の恋は青い空を知っているか。

テーブルに頬杖をついた浅黄さんがきょとんとした顔をする。
その表情に、はっと現実に返る。

「へえ」
「いや、あの、わたしが守れるのは蚊くらいからで……」
「君、何の動物が一番人間を殺してるか知ってるか?」
「人間、ですか?」
「蚊だ」

言うまでもない。口を開けてしまった。

ちょうど注文したものが届いて、目の前に並べられる。

「君は本当に、なんつーか」

カトラリーをこちらに渡しながら言う。
何を言いたいのか。

「最強だな」

浅黄さんが少し笑った。

そっちの方が最強の笑顔だった。

< 176 / 331 >

この作品をシェア

pagetop