生簀の恋は青い空を知っているか。
テーブルに頬杖をついた浅黄さんがきょとんとした顔をする。
その表情に、はっと現実に返る。
「へえ」
「いや、あの、わたしが守れるのは蚊くらいからで……」
「君、何の動物が一番人間を殺してるか知ってるか?」
「人間、ですか?」
「蚊だ」
言うまでもない。口を開けてしまった。
ちょうど注文したものが届いて、目の前に並べられる。
「君は本当に、なんつーか」
カトラリーをこちらに渡しながら言う。
何を言いたいのか。
「最強だな」
浅黄さんが少し笑った。
そっちの方が最強の笑顔だった。