生簀の恋は青い空を知っているか。
わたしは手を伸ばし、五色くんの肩にぽんと乗せた。ぽんぽんと二回叩く。
「了解」
そのまま五色くんを追い抜いて総務のフロアに戻る。自分のデスクに行って、メモをしまった。
五色くんが少し後にデスクに戻ってきて、こちらを見る気配を感じる。
「ありがとうね」
「何がですか?」
「ちゃんと言ってくれて」
何かを言いたそうにして、でも五色くんは何も言わなかった。
昼休憩に会社の外へ出た。夏の蒸し暑さをどこかへ置いてきたような、からりと晴れた日だった。
「もしもし」
言いたくて、電話をかけた。絶対に出ないだろうなと思いながら。