生簀の恋は青い空を知っているか。

もう聞いてない。

「もしもし、はい……ああ」

ジャケットを持って自分の部屋の方へ行く。
リビングに残されたわたしは洗濯物を畳み終えて、殆ど乾いた食器を棚に戻す。

浅黄さんの足音。

「明日、本社行ってくる」
「仕事ですか?」
「終わりに直で向かう、会場ロビーで待ち合わせな」
「う……」
「これ渡しておく。店連絡しとくから、ドレス買って」

お店の名刺カードと浅黄さんのカード。黒光りする恐ろしいものは無視だけじゃなかったのだと、それを受け取りながら思ってしまう。

それをテーブルの上に置いてじっと見た。

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