生簀の恋は青い空を知っているか。

浅黄さんがソファーに座って腕時計を外す。

「わたしが行って大丈夫なんですよね……?」
「なんだ今更」
「浅黄さんがどんな御令嬢と仲良いのか知りませんけど、知っての通り、わたしはかなり庶民的なんです」

外した時計が、同じテーブルの上に乗せられる。わたしの初ボーナスで買った時計よりも高価なものだ。ブランドに明るくないわたしでもわかる。

そういえばわたしの腕時計、どこに行ったんだろう。

「この国に庶民も平民も貴族もなかったと思う」
「感覚の話をしてるんです、わたしはなんていうか……そんなに愛想も良くないですし」

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