生簀の恋は青い空を知っているか。

嬉しいけれど、何も嬉しくない、なんて相反する気持ちが戦ってしまう。

何度目が分からない溜息を吐いて、家を出た。きちんと浅黄さんのカードと店の名刺を持って出かける。

コンシェルジュさんに挨拶をして駅の方へ向かう。わたしは一般市民なのでタクシーはそうそう使わないように育てられた。

店に行くと、店員さんの視線が全てこちらに向いた気がした。
注目されていることに、ぶわっと毛穴が開く。緊張で膝裏が震える。

「お待ちしておりました、最中様、こちらへどうぞ」

そう呼ばれて、そういえばわたしは最中松葉なんだったなと思い出す。

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