生簀の恋は青い空を知っているか。

これ、浅黄さんの車なんだ。
認識するより先に、匂いで分かった。浅黄さんの香水の匂いがする。

紙袋は後部座席へ。浅黄さんが運転席に座る。

その香りの主が近くに来て、胸が詰まる。

「……別居したいです」
「は?」
「一緒にいると苦しくなるので」
「酸素カプセルでも買うか?」

斜め上の返答に、頭をぶんぶんと振る。酸素カプセルって幾らするんだろう、と頭の片隅で考えてしまった自分がいる。

浅黄さんはシートベルトをせずに、ハンドルに腕をかけた。

「……ドレス、ありがとうございます」

突然訪れた沈黙に耐えかねて、わたしは口を開く。

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