生簀の恋は青い空を知っているか。
恋は甘く、愛は苦く。
最大限の愛想、と心の中で唱えたけれど、それも会場前に着いて飛んでいった。
「ここって浅黄さんのお祖父さんが会長をしてる会社じゃ……?」
「知ってたのか」
会場前の看板に書いてある名前と、創立50周年記念。
知ってるも何も、ホテル業界のドンだ。
知らない人の方が少ない。
「行くぞ」
手を引っ張られる。この会場でわたしが頼るのは浅黄さんの手しかない。
会場に入ると、一気に視線がこちらに向いた。ぶわっと緊張が全身に走る。
入口近くにいた男性がこちらに近づいてきた。
「常務、お疲れ様です。大丈夫でしたか」
「ああ、片付けてきた」
声を潜めて浅黄さんと話す。