生簀の恋は青い空を知っているか。

「うん、驚いた」

言ったわりに驚いたようには見えない。わたしは何から話せば良いのか考えて黙る。
浅黄さんが缶コーヒーに口をつけた。

「三年前、一度だけ兄が代表になったことがあります」
「ん」
「すぐに経営が傾きました。運が悪かったのか、経営の素質がないからなのか、わたしには判断できなかったんですけど」

きっと浅黄さんだったら分かったのだろうな、と言いながら思った。わたしは続ける。

「ひっくり返る前に、今の柴舟の代表、うちの叔父さんに変わったんです」
「三年か……」
「はい。わたしは働き始めたばかりでまだ家にいて、兄は一人暮らしをしてました」

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