生簀の恋は青い空を知っているか。
「……それから三年、兄はオーストラリアに行ってることになってます」
浅黄さんは手の中の缶コーヒーをくるりと回した。
「そうか」
「あの病室は親族しか入れないようになってます。看護師さんが顔覚えてくれて、通してもらえます」
「うん」
「もうお気付きだと思うんですけど、うちが背負ってた借金もお兄ちゃんが……」
「もういい」
肩を掴まれた。
「もういい。よく頑張ったな」
ぐっと浅黄さんの方へと近付く。その手が背中を擦ってくれて、わたしはそれを甘受した。
ずっとその手が欲しかった。