生簀の恋は青い空を知っているか。

その階はいつも静かだ。

ナースステーションに顔を出すと、初めて見る看護師さんがいた。

こんばんは、と声をかけるとぱっと顔を上げる。私を見てきょとんとした後、「こんばんは」と挨拶を返す。

病室の扉を開くと、お兄ちゃんは変わらず横になっていた。窓際の花が新しくなっている。
母が来たのだと思う。

思えばこの半年間、浅黄さんと会ってから色んなことがあった。

「お兄ちゃんが浅黄さんを見たら、なんて言うんだろ」

全く想像ができなくて、自分の膝に肘をついて考える。

指輪のことも話して、丸椅子を立った。

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