生簀の恋は青い空を知っているか。

腕にそっと触れて、「また来るね」と話す。

丸椅子をしまってバッグを持った。病室の扉を開けると人影が見えて、驚いた。

そこに居たのは、浅黄さんじゃなかった。

「……理美?」

わたしを見る顔色が酷く悪かった。

どうしてここに、こんな時間に。
首を傾げるより先に、重大なことに気付いて心臓が冷えた。

扉を掴む、閉める前に理美が口を開いた。

「どういうこと?」

泣きそうな声が聞こえる。わたしはその顔を見ることが出来なくて、クリーム色の床に視線を落とした。

誤魔化し方を頭の中で探した。

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