生簀の恋は青い空を知っているか。
「ねえ、松葉ちゃん!!!」
叫びにも似た声が、病室内や廊下に響き渡る。
私は何も言えなかった。
言う言葉を持ち合わせてなかった。
きーん、と耳の奥で声が残る。
「ごめん……」
「そこにいるの、秋水さんだよね?」
「ごめん、理美」
「オーストラリアに行ってるって、嘘だったの?」
「ごめん、理美、お兄ちゃん聞いてるから」
そう言うと、理美は口を噤んだ。
ベッドで眠っているように見えるけれど、お兄ちゃんは話を聞いてる。
こんな、理美の言葉を聞かせられない。
病室を出ると、ナースステーションに戻ってくるいつもの看護師さんが見えた。