生簀の恋は青い空を知っているか。

店内は空いている。なのに、何故、と隣に視線を向ける。

「……え、何してるんですか?」
「さぼり」

スーツ姿の浅黄さんがいた。外は寒いのに、コートすら羽織っていない。

「40分の仮眠休憩を抜け出してきた」
「それは……大丈夫なんですか?」
「眠い」

きっとそこまでタクシーで来たのだろう。浅黄さんは腕を組んで、肩に寄り掛かってきた。

「会社に用事があったんですか?」

まだ眠っていないだろうと思って、尋ねる。いや、と返事がある。

「疲れたから君に会いに来た」

40分の休憩時間を抜け出してまで。

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