生簀の恋は青い空を知っているか。

その言葉にきゅうっとなったので、胸の辺りを押さえる。

話題転換しないと心臓が持たない。

「キプリナスホテルって、鯉のデザイン入ってますよね?」
「ああ」
「もしかしてキプリナスって……」
「鯉」

なるほど。そういえば、と記憶を手繰る。

最初のキプリナスホテルは一軒の旅館からだったという。先代はその旅館に大きな池を作り、多くのお客様が来るようにと願って、鯉を放した。

「浅黄も鯉の名前だ。バカみたいだろ」

ちょっと疲れたように笑って、浅黄さんは完全に目を閉じた。

バカみたいだろうか。
でも、浅黄さんはそれで縛られていると感じていたのかもしれない。

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