生簀の恋は青い空を知っているか。
「綺麗な名前だと思うけどな」
寝息が聞こえる。店内が静かで、誰もこちらに注目していない。
手をテーブルに伸ばして、ストローの紙袋を摘まんだ。
こちらに投げ出された左手の薬指にそれを巻く。長さを測って、それを回収した。
急に携帯が震えて、どきりとする。見てみると知らない番号。
「はい、もしもし」
浅黄さんのいない方の耳に当てた。がさがさ、と電話の向こうで風の音が鳴っていた。
『もしもし、お忙しいところ失礼致します、菊池です』
「あ、菊池さん?」
『急に電話して申し訳ありません。そちらに浅黄きてますか?』