生簀の恋は青い空を知っているか。
目が据わっている。危ない奴なのか分からないが、まあ良いかと思いながらそのベンチの端に座った。
ライターで火をつける。女は挨拶をしたきり全然こちらは見ようとせず、暗い池の中を見ている。
「鯉、好きなのか?」
雑談するつもりも、女に興味もなかったけれど、なんとなく話しかけてみる。
「……いえ、あんまり」
微妙な返事。俺のことを知らないらしい。
それなら気楽で良いな、と考えなおして煙を吐く。
最近暇があると吸う癖がついた。これから忙しくなったら、その癖すらも忘れてしまうんだろう。
「俺も嫌いだ」
この夜のことも、きっといつか忘れるんだろう。