生簀の恋は青い空を知っているか。


うちの部署は殆ど残業がない。ないと言えば嘘になるけれど、営業とかに比べれば全然ない。

わたしを見ればチクチクと刺してくるお局だって、わたしが帰る時間以上に会社に残っているのだろう。

「お疲れ様です」

守衛さんに挨拶をして会社のエントランスを出る。いつものように大通りを歩く人の中に混じろうとしたけれど、その中に異質なものがひとつ。

いや、一人。

「遅い」
「あ、はい」

遅いと言われても、約束とかしたっけ。

最中浅黄が立っていた。ちらちらと道行く人がこちらを見ているのが分かった。
何故こんなところに一人で立っているのか。

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