生簀の恋は青い空を知っているか。
夕方も過ぎてとっくに夜だけれど、辺りは少しだけ明るい。
日がどんどん長くなっているからだ。
近くに寄ってその顔を見上げた。
少し疲れた顔。
「何かありましたか」
「用がある」
「何徹目ですか?」
「うるさい」
顔を鷲掴まれた。目をしぱしぱさせて、浅黄さんは顔を背けた。
それから手が離れた。
「行くぞ」
駅の方へと行く背中を追いかける。
本当に何をしに来たのだろう。早く引っ越して来い、という話だろうか。
それとも結婚を白紙に戻すという話か。
不安が膨らむのは、わたしが何も聞けないからだ。
何も、言えないから。