生簀の恋は青い空を知っているか。
その後、仕事に戻るという浅黄さんがタクシーを呼び、反対側へ行くわたしは電車で帰った。
ホームで電車を待つ間、左指に嵌まる指輪を見てぼーっとしてしまう。それから気付いた。
連絡先聞くの忘れた。
実家に呼ばれて帰る。畳んだ傘の先から雨粒が落ちていく。構わず傘立てに入れて、パンプスを脱いだ。
「おかえりなさい」
前から聞こえた母の声に顔を上げる。この前見たときよりは顔色が良い気がする。わたしの縁談が進んでいるからだろうか。
「ただいま」
「この前浅黄さんがいらして、婚約の話をしてくれたわよ」
玄関で本題が始まってしまった。