生簀の恋は青い空を知っているか。

机の上に重なっている書類の束が落ちないか心配でちらりと見た。

「何を?」

上司の不倫現場か、後輩のセクハラ場面か。
そんなことをいの一番に考えてしまうあたり、わたしの頭もゴシップに染まっているなと落胆してしまう。

「先輩、最中浅黄さんと一緒にいませんでした?」
「わたしか……」
「ええ、先輩のことです」

会社の建物の前で会っていれば、確かに見られるに決まっている。

コメントしづらくて黙っていると、五色くんが少し頷いた。

「沈黙は肯定、と。見合い相手、あの人だったんですね」

質問でなく確定。その冷静な分析能力を、わたしにも少し分けてもらいたい。

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