Hate or Love?愛と嘘とにまみれた世界の片隅で
左手で太もものナイフを抜き取ろうと動けば、ものすごい力で掴まれ、壁に押しつけられてしまう。


「お前が俺に傷を付けることは不可能だ。お前は俺に勝てない」


宮瀬の爪が左手首に食い込み、一筋の血が伝うのがわかった。


女にも容赦しない冷酷さ。


…幼い子供を殺ったくらいだからそれくらい当然か。


「…離して」


こんな男に触られたくない。


なのに─。 


「ちょ…っ」


強引に奪われた唇は、気持ちいいと訴えかけてくる。


ナオより乱暴で、ナオよりぞんざいに扱ってくるのに。


「ん…っ」


思わず声が漏れてしまう情けないあたし。


壁に押さえつけられたままのキスが気持ちいいはずない。


そう思いたいのに、身体は反応してしまう。
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