Hate or Love?愛と嘘とにまみれた世界の片隅で
「傘1本しかないね」


「…あたしは大丈夫だから、どうぞ…」


この天気だから皆買っていったんだろう。


残りはこの1本しかなかった。


あたしはどうせ家出人だし、この人に譲ろう。


そう思って言ったのに、彼はそれを断った。


「こういうのは女の子優先するもんなんだって。だから…はい」


あたしには勿体ない優しい笑顔で傘を持たせてくれる。


「…ありがとう…ございます…」


いつぶりだろう。


人の優しさに触れたのは。


あたしを敬遠しない人に出逢ったのは。


親でさえあたしを煙たがり遠ざけるのに。


「じゃあ…」


「あっ、待って」


ペコリと頭を下げ、レジに向かおうとしたあたしを、彼が呼び止めた。


「…なんですか?」
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