予言書を手に入れた悪役令嬢は役を降りることにしました。
驚愕に息を止めたミリアはピタリと手を硬直させたまま恐る恐る視線を尻の下へ向ける。

ミリアが尻を着けているのは、薄汚れた柔らかな『何か』だった。

ふわふわとして、柔らかい。
けれど存外しっかりともしていて、ふわふわとした感触の下には固い何かがあるのがわかる。


ミリアはようやく、自身が見知らぬ場所に入り込んでしまったのだということを思い出した。

ラーナを探しに出た庭で、睦み合う二人を見つけたのだ。気付かれないうちにその場を逃げ出して、どこへとも知れずに庭の奥へ奥へと入り込み、木々の隙間に古い使われていないらしい礼拝堂を見つけた。
ほんのわずか、開いた扉に誘われるようにして中に入りーーーそして、

「私、床の下に落ちたんだわ」

隠し部屋だったのだろうと思う。
古い礼拝堂の中はところどころ床の板が痛んで割れたり欠けたりしていた。
そこにつま先を引っ掛けて、転けたその先が偶然にも割れて穴の開いた場所だったのだろう。中に入った時は、それほど大きな穴が開いているようには見えなかった。
もしかしたらミリアの体重で腐った床板が割れ落ち、穴が広がったのだろうか?
その下に小さな空間があったのだ。

混乱が重なって、そのまま泣きじゃくっていたけれども……。

ミリアはゆっくりと周囲を見回す。
礼拝堂の開いた扉や窓から月明かりが差し込んでいるらしく、薄暗くはあるが、周りは見通せた。

人が二人ほども入れば少し狭く感じるほどの小さな空間だった。
剥き出しの石壁の上部には通気孔らしき細い穴が一つ。扉らしきものはなく、四方を壁に囲まれている。

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