予言書を手に入れた悪役令嬢は役を降りることにしました。
(しばらくは、ここにいるしかなさそうね)

そう時間のかからない内に誰かがミリアの不在に気づいてくれるだろう。
最悪でも客の皆が帰り始める頃には、気づいてくれるはず。

そうすれば姿の見えないミリアを探してくれるはずだ。
ここは庭の奥とはいえ邸の敷地内。
礼拝堂の扉は開け放たれたままだし、中を覗いてみれば床の穴にも気づくだろう。

(できれば明るい内に見つけてほしいところだけど……)

雲が増えているのか、差し込んでくる月明かりがつい先ほどと比べても明らかに薄く陰りを帯びている。

とはいえ声を上げてみても果たしてどこまで届くものか。

ーーー声。

ぞくり、と自身の思考に浮かんだそれに、ミリアは背を震わせた。

考えないように、思い出さないように、気にしないように、そう自身の思考を誘導しようとしたところで、やはり頭の隅に引っかかったまま。

(ダメ、ダメ、ダメ)

違うこと、違うことを考えなくては。
ミリアはぶんぶんと頭を振り、目を固く瞑った。けれどもそうして視界を閉ざすことで、より聴覚が鋭敏になる気がする。

結果、わずかに鳴った木の軋む音にミリアは誇張ではなく本当に飛び上がった。

(……そ、外?)

びっくりした。びっくりした。

「……も、もうっホントにびっくりした!」

もう嫌だっ!とミリアは思わず手を振り上げて無意識に近くにあるものを叩いた。

叩いて、しまった。
それがいったいどのような事態を起こすこととなるか、知るよしもないゆえに。





< 13 / 54 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop