予言書を手に入れた悪役令嬢は役を降りることにしました。
「だっから人のことをバカスカ叩くんじゃないわよっっ!ってさっきも言ったでしょっ!!このチンクシャの泣き虫娘っ!」
「ひぅっ!?」

拳が布を叩いた途端、またも聞こえてきた声にミリアは声にならない悲鳴を上げて後ずさった。
もっとも後ずさるだけのスペースもなく、すぐにしたたかに背中を打ち付けただけだったが。

(なに?なに?なんなの?)

ミリアは半ばパニックになりながら、部屋の中を見回す。が、やはりそこに声を発したはずの人の姿はない。
あるのは無機質な石壁と、分厚く幾重もの布で覆われた『何か』

「だ、れ?いったいどこから……」

ガチガチとどこかで固いものが何度もぶつかり合う音が聞こえる。
今度は何か、と思いかけて、すぐに自分の上下の歯が震えてぶつかり合う音だと気づいた。

「あら?あらあらあら?」

またも聞こえた声にミリアは息を飲む。
声の主は全て同じ。
女性のものらしい声。

「もしかして私の声聞こえてる?」

その問いに、ミリアは顔を強張らせた。

「もしかして私の声聞こえてる?」

そう今、声は言わなかったか。
もしかして、と疑問系で。

だとするとミリアはいわゆるしくじった、という状況なのではないか。
声の主は自身の声がミリアには聞こえていないと思っていた。もしくは聞こえていないかも、と思っていたのではないか。

先ほどの言葉は聞こえていないと思いつつもつい口を付いて出た。そのようなものだったのではないか。





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