予言書を手に入れた悪役令嬢は役を降りることにしました。
この日、ミリアは親友の誕生日パーティーに訪れていた。

お祝いに親友の好きなピンクの薔薇のコサージュを持って。

「ありがとう嬉しい」 

そう言って微笑んだ彼女の姿がいつの間にかサロンから消えていることに気づいたのは三人目とのダンスを終えて一息着いた時。
珍しい黒髪を高く結い上げていくつもの生花で飾った彼女は女性にしては長身であることもあって目立つ。

「ねぇ、ラーナはどうしたのかしら?」

主役の不在に、ミリアは飲み物の乗ったトレイを持って近づいてきた給仕に声をかけた。

「お嬢様は先ほどベランダへ向かわれたようですが」
「そう」

ラーナはアルコールに弱い。
今夜は主役ということもあってずいぶん乾杯を重ねていたように思う。
もしや具合を悪くしたのではないかと、ミリアは心配になった。

「……ロアン様も見当たらないわ」

ラーナが向かったらしいベランダへと足を向けながら、ミリアはサロン内を見回して呟く。


ロアン・ベトローニャ伯爵子息はミリアの婚約者で今夜のエスコートとファーストダンスの相手でもあった。
ファーストダンスの後、ミリアはすぐに次のダンスを申し込まれ、ロアンもまた別の女性に誘われていたはずだ。

(ロアン様も風に当たりにでも行ったのかしらね?)

そんな風に思いながらもミリアは微塵とも疑ってはいなかった。
まさか、二人してこの場にいないからと言って、『何か』があるだなんて。



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