予言書を手に入れた悪役令嬢は役を降りることにしました。
いったい何故ここにいるの?
いったい何故あの場所にいたの?
いったい何故、あなたは殺されたの?

ーーーあなたは、何者なの?

いくつもの疑問が喉の奥で詰まる。
 
幽霊だけど、
幽霊なのに、

優しい人。

取り憑いてやるとかいいながらそれでいて行うという嫌がらせは毎晩歌を歌うというだけ。
ミリアが倒れて、ここに運ばれるまでずっとそばにいてくれた。

さっきまで、眠っていた自分の手を握ってくれていたのはきっと彼女。

ラーナの物言いに他人ごとなのにプンプンと怒って、幽霊なのに、コロコロと表情を変えて。

(不思議な人)

幽霊なのに、ちっとも怖くない。

ミリアの呟きに、幽霊の女性はフワフワと何故かベッドの傍らにあるミニテーブルの上に足を揃えて座った。

正確には、ミニテーブルの上に置かれた本の上に、いわゆる正座、と言われる極東の国で使用される座り方で。

「そう言えば自己紹介がまだだったわね」

言って、ずい、とミリアの顔に顔を寄せる。

「私はアルジェリカ・グリスフィード。グリスフィード侯爵令嬢でーーーこのアクセリナ王国の王妃になるはずだった女で」

すい、と半透明の細い指が自身の身体を通り抜けて、その下に敷いた本を撫でて言った。

「この預言書に憑いている幽霊よ」

ーーーと。
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