予言書を手に入れた悪役令嬢は役を降りることにしました。
♢♢♢


ミリアの知る史実の中の、あるいは物語の中の『アルジェリカ・グリスフィード侯爵令嬢』という人物は20年前、散々社交界を騒がせていくつもの罪を重ねて、そして『病死』したと言われている人物だ。

幽霊の彼女が言った通り、当時の王太子の婚約者で、ゆくゆくは王妃になるはずだった人物。

社交界デビュー直後は『白百合の淑女』『白銀の花姫』と呼ばれ、後には『稀代の悪女』『強欲の毒婦』時には小説の登場人物になぞらえ『悪役令嬢』等々、様々な嘲名で呼ばれた女性。

(そうだわ)

アルジェリカ・グリスフィード。
稀代の悪女と呼ばれた女性を蔑み、嘲りを込めた数ある呼び名の中には確か。

『白百合の魔女』というものがなかったか。

(あの本のタイトル……)

アルジェリカ・グリスフィードを名乗る幽霊が足の下に敷く彼女がなにやら預言書とか言ったあの書物。

彼女が『私の物語だった』とそう呟いていた礼拝堂で見た時のタイトルはーーー。

『アクセリナ王国物語~薔薇の乙女と白百合の魔女~』

あのタイトルの『白百合の魔女』がアルジェリカ・グリスフィード侯爵令嬢。
なら『薔薇の乙女』は?

「リーザロッテ・ルードヴェリス大公妃?」

20年前、アルジェリカ・グリスフィードの婚約者であった王太子と恋に落ち、それゆえにアルジェリカ苛烈な嫉妬に晒された女性。

婚約者のいる人物との恋は当初こそ不貞と非難され、恥知らずと罵倒され、けれどあまりに苛烈で卑劣であったとされるアルジェリカの嫉妬と、アルジェリカとの婚約の破棄と子爵令嬢であったリーザロッテとの婚姻のために王太子の地位を自ら捨て去って継承権さえ捨てた王子の一途な思いと、アルジェリカに幾度も貶められ最後には殺されようとしても、罪人は彼女ではなく自分とけしてアルジェリカを責めなかった心持ちに、いつしか『運命の恋ゆえの過ち』と誰しもに認められた恋物語の主人公。

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