予言書を手に入れた悪役令嬢は役を降りることにしました。
パキン、と奇妙な男がした。

鋭い何かで硝子を叩いたような、堅い床の上に割れ物を落としたような。
あるいはワイングラスに罅が入った瞬間のような。

パキン、パキン、と続け様に音がする。
音の発信源は不明で、そのような音がする物は見当たらない。しかもその音は部屋の中、どこからというとあちらこちらとしか言いようがなく散らばっているように聞こえてくる。

(……こ、これってもしかして?)

以前読んだ小説に出てきたとある音に似ているように思えた。
その話の中では霊が感情を揺らした時に空気が震えその音が鳴るとされていた。

いわゆるラップ音。

ミリアは喉の奥で悲鳴を上げ、掛布を頭まで覆った。

幽霊自体は怖くないと思っても、やはりこういった怪奇現象はまた別である。
心なし音が鳴り始めてから周囲の空気もヒンヤリと冷たくなった気がする。


「ふ、ふふ、ふふふ……そう。そうなのね」

掛布を頭からひっかぶったミリアの耳に、嬉々とした女性の声が聞こえてくる。

「ふふふ、ぷふっ!ざまァ!!大公妃?大公妃ですって?リーザロッテ・ルードヴェリス大、公、妃!!あんのクソ猫被りの貧乳女っ!結局私を蹴落としたところで王妃にはなれなかったのね~っ。ま、当然よねぇ」

ほ~っほっほっ!

という高笑いがまさに悪女らしい。

「それに比べ私ったら、稀代の悪女だなんて。うふふ、稀代の、ね!死んでからもそんな呼称がつくほど有名だなんてさすが私っ!」

ええ?と、掛布の中でミリアは怖さも忘れてドン引きした。


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