予言書を手に入れた悪役令嬢は役を降りることにしました。
視界を掛布に遮られているのに、ミリアにはアルジェリカのこれ以上ないほどのドヤ顔がありありと見えるような気がした。

そっと指先で掛布の端を持ち、目の下まで引き下げる。
するとそこには想像したとこりのドヤ顔に拳をぐっと顎の脇まで振り上げた幽霊の姿があった。



「……有名は有名だけど、悪名なんだけど?」
「あら」

思わずツッコミを入れたミリアに、アルジェリカは少しだけ拳を下ろして「だからなに?」と言った。

「たとえ悪名でも死後も語り継がれるほどの有名人だなんてなかなかいないのよ?それだけ私が最高に目立ってたってことでしょ」
  
最高というか最低では?
そう思ったけれど、ミリアがそれを口に出すことはなかった。
ただ一言、

「そ、そう……」

とだけ返して目を逸らす。

そうしてしばし時間をおいて、一つ深呼吸してから。

「それで?」

と視線を戻した。

「それでどうしてそのアルジェリカ・グリスフィード侯爵令嬢がここにいるのかしら?」

しかも幽霊として。
ミリアも、そしてこの邸の持ち主であるラーナの父もラーナも、アルジェリカ・グリスフィード侯爵令嬢との接点など、何もないはずなのに、何故。
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