予言書を手に入れた悪役令嬢は役を降りることにしました。
「つまり~っ」

なんとも締まらない口調とふわふわふらふら宙に漂いつつ寝転がるという締まらない態度でアルジェリカことアージェ(本人の希望でそう呼ぶことになった)が言うことには。


20年前。
王太子の婚約者であったアージェは一冊の本を手に入れた。

すべての始まりだったというその本は奇妙なことにアージェ以外の人間には意味のない文字の羅列が並んでいるように見えたという。


それは当時アージェが住んでいたグリスフィード侯爵家の王都のタウンハウスの書斎に並んでいた一冊だった。
ただ奇妙なことにいつからそこに並んでいたのかは邸の誰も知らなかった。
書斎の主である父も、書斎の本をすべて管理して把握しているはずの執事も、毎日掃除に入るメイドも。
誰もがそんなものはそこにはなかったと言う。この事は後にアージェが邸の全員に確認して回ったからほぼ間違いない事実だ。

就寝前の読書に何気なく選んだはずの一冊。

なのにアージェはそれを自室で改めて見た時、何故か猛烈に惹きつけられた。
他にも何冊も共に持ってきていたというのに、アージェが手に取らずにいられなかったのはその一冊。

タイトルは《アクセリナ王国物語~薔薇の乙女と白百合の魔女~》

「最初は邸の中の誰かの悪戯かと思ったわ」

何故なら開いて見た本の内容、その登場人物はーーー。

「私、なんだもの。ヒロインは知らない名前だったわ。ヒーローは王太子で、私は」
ーーーいわゆる悪役令嬢という役柄だった。

ふらふら揺れ動きながら、アージェは視線だけは真剣に、その奇妙な物語を語り始める。

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