予言書を手に入れた悪役令嬢は役を降りることにしました。
それは、まるで先の未来を予告するかのようなものだった。

物語の始まりはアージェがその本を手にしてからおよそ一月の後。

父の騎士爵位叙任に伴い王都にやって来た一人の少女ーーー物語のヒロインであるリーザロッテがとある絵画の展示会へ訪れることから始まる。



リーザロッテはそこで偶然出会った一人の青年と恋に落ち、後にその恋人がこの国の王太子でありすでに婚約者のいる立場だと知る。
悪役令嬢アルジェリカ・グリスフィード侯爵令嬢。つまりアージェだ。

密かに、けれど急激に恋心を育てていく二人。

だが、王太子という目立つ人物との重なる逢瀬は隠していても人の目につく。
小さな噂から、やがて人の口の端に上るたびにさざ波のように広がっていき。

リーザロッテが嫉妬という名の悪意に晒されるようになるのに、さほどの時間はかからなかった。

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ミリアはアージェの珊瑚の色の唇から紡がれる物語を掛布にくるまって静かに聞いていた。

その物語はミリアの知る世間に広く流布された大公妃リーザロッテの恋物語とほとんど同じもの。

違いといえば多少アルジェリカが行ったとされるリーザロッテへの仕打ちが控えめであることと、アルジェリカの死因。

ミリアの知る悪女アルジェリカ・グリスフィード侯爵令嬢の最後は侯爵家の領地に軟禁された上での『病死』
けれども物語の中の、そして実際のアージェの死因は刃物による斬殺だった。







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