予言書を手に入れた悪役令嬢は役を降りることにしました。
ミリアはなんとも言えない複雑な気持ちで、ふわふわと浮かぶアージェを見上げていた。

気の毒というか、自業自得というか。

婚約者のある身でありながら他の女性に心を移した王子も、婚約者のいる男性と恋に落ちた挙げ句結果的にその婚約者を追い落としたヒロインのリーザロッテも、けして本来なら褒められた所業ではない。
けれどもミリアの知る物語の中のアルジェリカ・グリスフィードはあまりにやりすぎていた。

アルジェリカの見事な悪女っぷりが、本来なら浮気者と泥棒猫と呼ばれてもおかしくはなかったはずの主人公二人の恋を肯定してしまった。
もとよりアルジェリカ・グリスフィードは王太子妃に相応しくなかったのだと。

「……どうして」

知らなかったのならまだわかる。
けれどアージェはそのままなら自身がどうなるのか知っていたのだ。
知っていて、自ら破滅への道を突き進んで行ったようにも見える。

ーー負けたくなかった?


「……バッカじゃないの?」

気づけば心の声が外に出ていた。

「あなたはこの本で自分がどうなるのかを知っていたんでしょう?なのにどうして好きでもない人に固執して悪女になんてなってるのよ!好きで好きで諦められないというのならまだしもたいして好きじゃなかったんでしょう?」

(私、なんでこんなに怒ってるのかしら?)

ミリア自身にもよくわからない。
わからないけれど、なんだか腹立たしくて仕方なかった。

そんなミリアに対して、アージェは宙に浮かんだまま、そっと自身の腹に手を当てた。

「あきらめるわけにはいかなかったのよ。だって私のお腹にはすでにあの男の子供がいたんだから」
「……ぁ」

そういえば、とミリアはその腹を見つめた。


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