予言書を手に入れた悪役令嬢は役を降りることにしました。
今はぺったんこのその腹。
けれどその中には赤子が入っていたわけで……。

赤子が宿るには当然だが相手がいる。

「えっと、つまり……その、お子様の父親は、やっぱり……?」
「王太子よ。ちょうどあの女が出てきた辺りで気がついたの」
「……ぁ、こ、婚約者ですものね?そ、そういうことがあっても、おかしくないです、よね」

ははは、とミリアは頬をひきつらせながら力なく笑った。
別に何もおかしくないのだけれど、むしろなんか違う、という気がものすごくするのだけれど、かといって他にどんな反応をすれば良いかわからなかったのだ。

けして褒められた行為ではないが、かといって非難されるほどの行いでもない。
一夜の過ちなんてものは、それこそ社交界では腐るほどありがちで……。

「……嵌められたのよ。家に。うちの母親が何が何でも王妃にって人でね。あの女が出てくる前から正直?私たちって婚姻はしてたけど関係は微妙だったから。身体を使ってもしっかり繋ぎ止めろってことね。はっ、娘の部屋に婚約者だからって夜這いを仕掛けさせるんだから、まったくいい母親だったわ~」
ーーしかもその一回でデキちゃうなんてね。

サラリとすごいことを言われてしまったミリアは、今度こそどういう顔をしてよいものかわからなくて、下を向いた。
けれど。

だんだん、ムクムクとまた苛立ちのような、怒りのような感情が胸の奥で沸き立ってたまらなくなる。

ミリアの思っていた王太子様ーー現大公様は身分違いの一途な恋を貫いた素敵なヒーローだった。

だけど、アージェの口から聞かされたそのヒーローであったお方の行為はーー。

「つまり王太子様は婚約者だからってアージェに夜這いをかけて行為を強要した上に不貞を働いたってこと?」




< 49 / 54 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop