予言書を手に入れた悪役令嬢は役を降りることにしました。
♢♢


ミリアは泣いて、泣いて、泣いて、とにかく気が済むまで泣きじゃくった。
そのうち鼻の奥が痛くなって、瞼がずくんずくんと脈打ち、頬がバリバリに固まったような感触になってきたけれども、それでも泣き続けた。


もはや自分でも何故これほど泣いているのかわからない。

悲しいのか。
悔しいのか。
憎いのか。

ただ泣きたいだけなのか。
さっぱりわからない。

そのいずれかのようにも思うし、全てであるようにも思う。

ロアンのことは好きだ。
政略結婚ではあるが、ミリアはロアンのことが婚約が決まる前から好きだった。
だから好きな相手ーーーしかもれっきとした婚約者でもある相手に浮気されたのが悲しいのかといえばそれはその通りで、けれども今更といえばあまりにも今更な話でもあった。

何故なら。
ロアンの浮気はこれが初めてではないどころか、何度となく繰り返されてきたことなのだから。

そもそも浮気と言っていいのかすら疑問だ。
浮気とは恋人同士であったり、夫婦の間にあるものであり、それなりにお互い気持ちであったり関係性があったり、して初めて浮気と言うのではないかとミリアは思う。

もともと気持ちも何もない、むしろ嫌われている状況では、浮気も何もないのではないかと。




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