予言書を手に入れた悪役令嬢は役を降りることにしました。
ぷりぷりと言い募ったミリアにアージェはクルリと宙で一回転してから、肩をすくめてみせる。

「まあ、そうね。子供が出来ていたことは知らなかったけど?」
「何故言わなかったの?」

伝えていれば、また違う結果になっていたのではないか。
ミリアはそう思ったけれど、アージェはそれにも肩をすくめて苦笑を返した。

「言って?そうしたらどうなったと思う?王族の血を引く子供よ?責任を取って結婚してくれるかしら?それとも」
ーーなかったことにされるかしら?

ドキリ、と心臓が跳ねた。

「あの男が自分の子だと認めるかもわからないし、認めたとして、それでも彼女を選ぶとなったら?私のお腹の子はただ邪魔で厄介なだけの存在よ。生かしてはおかないでしょ?言えないのよ。少なくとも結婚が確実になるまでわね。変な話よね~。婚約者なのに、結婚するか知れないなんて。だからお腹が大きくなるギリギリまで誰にも言わなかった。あの女を追い払って、そうしたら言うつもりだったけど、結局最後まで言わなかったわね」
「…………」
「私が父の領地で監禁されたのは家の者に妊娠に気づかれたからよ。その頃にはもう私の立場は絶望的だったから、ひっそり堕胎させるつもりだったのね。でも手遅れだった。すでに私のお腹の赤子は堕胎できないところまで育っていたの」

アージェの手はそっと自身のお腹を撫でている。
その様子は手慣れているというか、もう何度も何度もそうやって触れてきたのだと物語るような手つきで。

きっと彼女はお腹に子が宿っていた間も、そうしていたのだろうと思わせるものだった。

「ふふ、不思議よね?好きでもない男のほしくもなかったはずの子供なのに、それでも大切なのよ。この子のためだったらいくらでも悪女にでも人でなしにでもなってみせたわ。それでこの子に父親とちゃんとした地位を与えてあげられるんだったら、それで良かったのに……失敗したわ」



 


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