予言書を手に入れた悪役令嬢は役を降りることにしました。
「だからなの?」

考えるより前に、言葉が口をつくということはきっとこういうことを言うのだろう。
ミリアはぎゅっと掛布を握り締めて、喉の奥の奥から掠れた声を出した。

「だから、あなたは幽霊になったの?」

ミリアの問いに、アージェはこてん、と首を傾げる。

「ん~」

顎に指を当ててなにやら思い悩む素振りを見せてから、

「たぶん、ちょっと違うかな?だって私、自分が死んだことには全く後悔してないもの。むしろ今回禄でもない人生だったぶん次に生まれ変わった時はもうちょっとラクチンで幸せな立場に生まれたいとか思ってたわねぇ?」
ーーほら、貴族ってなにかと面倒じゃない?だから、裕福な平民あたりがいいかなって。

そう言って、クルリと宙を回った。

「ーーは?」
「私がこんなんなってるのって、たぶん今際の際につい余計なことを考えちゃったからなのよ」
「余計なこと?」
「そ!だって悔しいじゃない?散々っぱら振り回されて結局ろくに何も変えられなくて、なんのために私の元にきたのよ~!ってめちゃくちゃ腹が立ったのよね~っ。コレに」

言って、アージェは予言書だという本をまた尻に敷いてミニテーブルの上に座った。

「ほら、地縛霊って自分が死んだ場所やこだわりのある場所に縛られるっていうじゃない?私の場合はどうも最後の最後にこだわってこだわって腹を立てて悔しくて悔しくて悔しくてもう頭ん中そんなのでいっぱいになっちゃったのよね?だってほら、別に死ぬことに関してはもういっかな~って感じだったし?子供のこともとりあえずは大丈夫ってわかってたし?となると、最後に残ってたのはこの本に対する変な執着?みたいなものだったみたいで……。そしたら気がつけばあら不思議、この本に取り憑いた形になってたのよ」
「ーーは?」

少し前に発したのとまったく同じ言葉にほぼ同じ発音。
けれどミリアの胸の内はよりいっそうなにそれ、と言いたくなるものだった。


< 51 / 54 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop