予言書を手に入れた悪役令嬢は役を降りることにしました。
ミリアはロアンのことが好きだ。
だからミリアにとってこの婚約は嬉しいばかりの出来事で。
けれど、もしかしたらロアンにとっては違うのだろうか?

そう思うと、すぅっと血の気が引いていく気がして、ミリアはぎゅっとスカートを握りしめた。

『……ロアン様、ロアン様はーーー』

私との婚約がお嫌なのですか?

喉元まで出かかった疑問は、結局外に出ることはなかった。それよりも前に耳に届いた苛立たしげな舌打ちにミリアはびくりと肩を震わせる。

『嬉しいだと?何を勝手なっ』
『ロアン様?』

こんなにも感情を露わにするロアンを見たのは初めてかも知れない。
ミリアは怯えながらも、胸の奥でそんなことを思った。

ロアンは怯えるミリアを憎々しげに見下ろして、けれどふいに、『……はっ』と小さく笑った。

『あぁ、そうか。知らないのか』
『ロアン様?』

ロアンは自身の柔らかい髪に指を指し入れてぐしゃぐしゃにしながら、声を上げて笑う。
口元は確かに笑みの形に歪んでいるのに、その目は笑っていない。ミリアは我知らずロアンの顔を見上げたまま後ずさった。
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