予言書を手に入れた悪役令嬢は役を降りることにしました。
『お前の親は僕をお前の婚約者として金で買ったんだよ』

ふ、え……、とひゃくりあげながら、ミリアは二年前、15才だったあの日のことを思い出す。

『だから勘違いするな。嬉しいなんて二度と言うな。二度とそんな期待するような目で僕を見るな。金で買われた以上、最低限の婚約者の役目は果たす。けどそれ以上は期待するな』

そう言って、向けられた冷たい目を思い出す。

『最低限の役目は果たす』

その言葉の通りに、ロアンは人前では婚約者の役目を果たしてきた。
パーティーの際には常にエスコートしてくれたし、ファーストダンスも踊ってくれた。
特に父母の前では優しい婚約者の顔をしていた。


ロアンに好かれることを諦めることができれば、あるいは嫌いになれれば、所詮は親の定めた相手と割り切ってしまえれば楽になれたのかも知れない。

けれどもミリアはそのようなことがあっても、ロアンへの恋心を捨て去ることはできなかった。

表面上は良い婚約者の顔をしながら裏では何人もと浮気をしているのを知っても、冷たい顔をされても、見せかけだとわかっていても、優しい顔で手を差し出されると心が沸き立ってしまう。


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